ビョーク通算4枚目となるフル・アルバム。
それまで発表された3枚のアルバムと異なる非常に内向的で繊細な世界観を丁寧につむぎあげた渾身の傑作。
『ジェネラス・パームストローク』は日本盤のみのボーナストラック。
- ヒドゥン・プレイス
- コクーン
- イッツ・ノット・アップ・トゥ・ユー
- アンドゥ
- ペイガン・ポエトリー
- フロスティ
- オーロラ
- アン・エコー・ア・ステイン
- サン・イン・マイ・マウス
- エアルーム
- ハーム・オブ・ウィル
- ユニゾン
- ジェネラス・パームストローク(日本のみのボーナス・トラック)
繊細に創られた音宇宙
ビョークが日本で最も注目されていたのは、映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が公開された時期だろうか。
それから1年もしない内にリリースされたアルバム『ヴェスパタイン』は、その注目度も相まってオリコンチャート6位と洋楽としてはかなり健闘した。
ソロデビューから3枚のアルバムはすべて実験的かつ傑作だったが、『ヴェスパタイン』はそのどれとも趣が違っており、エネルギーが外側から内側に向かっている印象はどこか暗く救いようがなかったビョーク自身が主演した 映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』 の役柄を引きづっているようにも思える。
オープニングの『ヒドゥン・プレイス (hidden place) 』から繊細で幻想的な精神世界にいざなってくる。
心臓の鼓動のような同じフレーズを続けるビート、楽器のソロパートどころかギターもピアノパートもないトラックにビョークの声とコーラスが重なる。
アルバム4作目にしてビョークにはポップミュージックの『型』は必要なくなっていた。
自分の好きなように音を鳴らせば独自の世界観と音楽を生み出す事ができるという確信を感じる。
それはビョークのソロ初の来日ライブを観に行った時に感じたかわいらしく素朴な印象とは違う、さなぎから蝶になったような変化と成長だった。
『イッツ・ノット・アップ・トゥ・ユー(It’s Not Up To You)』でもバックトラックの演奏はほぼデジタル音のみだが、ここにビョークの声とコーラスが乗ると無機質な音楽がとたんにエモーショナルなものになる。
次の『アンドゥ』ではミニマル・ミュージック的に延々とさざ波のように同じフレーズ繰り返されるに中で児童合唱団のコーラスが加わり感動的なエンディングを迎える。
クライマックスは、故郷をアイスランドを連想させるタイトルの『オーロラ』。
デジタルビートに幻想的なハープの音色とビョークの歌声と児童合唱団のコーラスが乗る本来なら違和感のある組み合わせなのに素晴らしく融合している。
日本盤のボーナストラックである『ジェネラス・パームストローク』は、シングル『ヒドゥン・プレイス』のカップリング曲でミックスも同じバージョン。
アルバムの1曲目から最後まで曲のイメージが繋がって強力な相乗効果となっている。
相変わらずかなりのパートで電子音を使っているが、アナログ楽器、そしてビョーク自身の声はあまり加工してないので生々しくひとつずつの音に生命があるようだ。
プログラミングを手掛けたマトモスらの功績も大きいのだろうが、それをコントロールしているのはやはりビョーク自身なのだ。
アルバム総評
ビョークは、これまでのデジタルなハイパーなアルバムから『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を挟んでデジタルとアナログを融合した癒しのアルバム『ヴェスパタイン』でついに最高傑作を作り上げた。
ただ芸術性を追求するあまり、間口を狭めてしまった感があるのも否定できない。
このアルバムは一種の絵画でもあり、ドラマでもあり、精神世界でもある。
すべては聴き手のインスピレーションにゆだねられている。
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