ジギー・スターダストに続くデヴィッド・ボウイのキャラクターとしてアメリカツアー中に『アラジン・セイン』のアイディアが生まれ、日本ツアー前後にレコーディングされた。
美しく洗練されたジギーに比べてアラジン・セインは、狂気の若者を意味する(A Lad In sane)をもじって名付けられ、アメリカ市場向けにやや荒々しく粗野なイメージを打ち出した。
- あの男を注意しろ
- アラジン・セイン (1913-1938-197?)
- ドライヴ・インの土曜日
- デトロイトでのパニック
- 気のふれた男優
- 時間
- プリティエスト・スター
- 夜をぶっとばせ
- ジーン・ジニー
- 薄笑いソウルの淑女
アメリカ向けに生まれた新キャラクター
アラジン・セインはアルバム全体の明確なコンセプトやストーリーはなくジギースターダストのワールドツアー中に、かなり慌ただしく短期間で製作された。
キャラクターとしては、ジギー・スターダストと明確な違いはなく、アメリカ向けのジギー、あるいはジギー・スターダストバージョン2と言ったところか。
レコーディング時間が無かったためか『ハンキー・ドリー』『ジギー・スターダスト』と同じケン・スコットのプロデュースだったが、音のバランスが微妙に悪くジギー・スターダスト、ハンキー・ドリーらに比べてかなり荒く雑なサウンドになっている。
しかしその反面、その荒々しさが結果的にロックンロールの疾走感や凶暴性を表現してデヴィッド・ボウイのアルバム中で最もロックンロール色が強いアルバムとなった。
アルバ全体を通して相変わらずプレイヤーとしてもアレンジャーとしてもギターのミック・ソンソンは大活躍していて、この時期のボウイの最も重要なパートナーであったのは間違いない。
オープニングの『あの男を注意しろ(Watch That Man)』は一聴するとストーンズっぽい楽曲に聴こえるが、斬新なコード進行とスパイダースの疾走感あふれる演奏によってこの時期のデヴィッド・ボウイでしか出せない魅力にあふれたロックンロールナンバーに仕上がった。
サウンド面で前作との明確な違いは、ピアノで参加したジャズ畑出身のマイク・ガースンの存在がある。
アルバムのタイトル曲の『アラジン・セイン(Aladdin Sane)』の後半は、完全にガースンのアドリブソロを中心に作曲されており、このアルバムの不安定で危なっかしいイメージを決定付けている。
ロックにこんなに長いフリージャズのピアノソロを入れるのは当時としてはかなり新しい試みだったんじゃないだろうか。
慌ただしい曲が多いアルバムの中で、じっくり聴ける普通に良い曲と言えるのが、『ドライヴ・インの土曜日(Drive-In Saturday)』で50年代風のアレンジとコーラスで歌い上げるこれまでのボウイになかった真っ当な王道タイプの楽曲。
『デトロイトでのパニック(Panic In Detroit)』にしてもミック・ロンソンのヘビーで絡みつくようなギターリフとラストのギター・ソロは非常に凶暴で90年代のオルタナディブロックを先取りしたような感があるノイジーでラフな演奏。
『プリティエスト・スター(The Prettiest Star)』は、1970年にマーク・ボランと共演した曲の再レコーディング曲で、すでに発表されていたこの曲を入れる時点でアルバムの曲数が足りていない事を物語っている。
そして『気のふれた男優(Cracked Actor)』での支離滅裂で危なっかしいコード進行と、かなりイっちゃってる歌詞を強引にまとめてロックンロールしてしまう当時のボウイは怖いものなしのように思える。
『ジーン・ジニー(The Jean Genie)』は、ツアー移動中のバスの中でアイディアが生まれた曲でレコーディング時間はたった1時間だったが、シングルカットされ全英2位を記録している。
アルバム総評
『アラジン・セイン』の1曲目と最後の曲ではとても同一人物の同アルバムとは思えないギャップがあり、全体的にとっちらかった印象があるが、ボウイの最も勢いのある時期に発売されたアルバムであり、ミック・ロンソンがジェフ・ベックのギターリフをお手本に仕上げたライブの欠かせないレパートリーになるグラム時代の代表曲の1つの『ジーン・ジニー』をはじめ、ストーンズのカバー『夜をぶっとばせ』など全体的に勢いで押し切ってしまう疾走感と気持ちよさがある。
ちなみに有名なこのジャケットの稲妻メイクは、日本のパナソニックのロゴマークから拝借したものだそうな。
アルバムデータ
- オリジナルリリース
- 1973年
- プロデューサー
- ケン・スコット/デヴィッド・ボウイ
- チャート
- 英1位 米17位
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⇒デヴィッド・ボウイアルバムレビュー一覧
コメント
なぜか手が出ない・・・デヴィッド・ボウイ「アラジン・セイン」
ここのところ、ずーーっとビリー・ジョエルネタばかりを書いてきましたので、他のネタが“けつかっちん”状態になってきました。いかん、いかん。溜まったら出しておかないと、体に悪いですものねー。(←何の話だ?)1週間くらい前のことでしょうか、肺癌で闘病中だった…
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ルドルフです。
「粗野」で「荒っぽい」ですか。でも、ミック・ロンソンは大活躍なのですね。ふーむ。やっぱ・・・聴いてみたいですね。
> 日本のパナソニックのロゴマークから拝借したものだそうな。
確か、ボウイが日本の電気炊飯器(に付いていたマーク)を見てインスパイアされたとかなんとか、でしたよね。
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世界を売った男の次にミック・ロンソンが活躍したアルバムかも知れませんね。
彼のギターが好きなら聴いてみる価値はあると思いますよ。