デヴィッド・ボウイのキャリアを語る上で大きな分岐点となるベルリン三部作の第一弾アルバム。
とは言いながら実は実際の録音のほとんどはドイツではなくフランスで行なわれていた。
ギリギリまで切り詰められた歌詞を乗せた遊び心のある電子音楽の前半と陰鬱なインストロメンタルの後半の対比が見事なロック史に残る名盤。
01. スピード・オブ・ライフ
02. 壊れた鏡
03. ホワット・イン・ザ・ワールド
04. サウンド・アンド・ヴィジョン
05. いつも同じ車で
06. ビー・マイ・ワイフ
07. ア・ニュー・キャリア・イン・ア・ニュー・タウン
08. ワルシャワの幻想
09. アートの時代
10. 嘆きの壁
11. サブタレニアンズ
最小限の歌詞とA面とB面の対比
ブライアン・イーノによる実験アルバム、アナザー・グリーン・ワールド に影響を受けたデヴィッド・ボウイは、イーノに急接近してプロデューサーのトニー・ヴィスコンティと共にフランスとベルリンで製作したこのアルバム、『ロウ』は当時としては賛否両論の大問題作となった。
なぜならポップスターであるはずのデヴィッド・ボウイのアルバムの半分には、かんじんの「声」がなかったからだった。
サイドA
オープニング曲、『スピード・オブ・ライフ』からいきなりインストロメンタルで軽快に始まる。
ポコポコした電子音は楽しげで聴く者の期待感を高める。
NHK BSの映画劇場のBGMとして使われているのでお茶の間で知らない間に聴いている人も多いかも知れない。
前半はディスコ・ロック的な軽快なテンポの曲が並ぶ。
『ホワット・イン・ザ・ワールド』のアナログシンセによるファミコンみたいなチープなポコポコした電子音が楽しい。
しかし、この明るさはもしかしたら絶望に追い込まれた者が開き直った明かるさなのかも知れないと後半を聴くと思えてくる。
歌詞はギリギリまで切り詰められ同じフレーズを繰り返す曲が多い。(スランプで歌詞が浮かばなかったらしい)
全くシングル向きでない曲調が並ぶアルバムの曲の中で、『サウンド・アンド・ヴィジョン』はシングルカットされUKチャートの2位を記録するヒット曲となった。
この曲はその後、90年のワールドツアーのタイトルにも使われ、同時期に発売されたボックスセットのタイトルにもなっている。
同じくシングルカットされた「世界中を旅してきたけど孤独は癒されない、僕の妻になってくれないか?」と問いかける何とも悲痛なメッセージの『ビー・マイ・ワイフ(Be My Wife)』で歌モノは終り。
明るいインストロメンタル、ボウイ自身が演奏するハーモニカが印象的な『ニュー・キャリア・イン・ニュータウン』ここまでがLP時代のA面に相当する。
サイドB
B面に相当する後半は『ワルシャワの幻想』から始まる重く冷たい絶望的とも思えるまさしく「LOW《ロウ》」な世界観。
それでも絶望の淵にいながらもロウになったままではない、上に這い上がるエネルギーも感じる。
『ワルシャワの幻想』の一部では何やら歌っているが、実はこれ何語でもなくボウイのアドリブによる雰囲気だけの言語でタモリの適当な中国語やフランス語みたいなもん。
想像上の言語なので意味はまったくない。
その理由については、「曲の書き方に飽きてきて新言語を開発したかった」とボウイは発言してる。
久しぶりにボウイが全楽器パートを担当した『嘆きの壁』では、中近東風なシンセが、何とも絶望感と不安感をあおる。
ラストの『サブテラニアンズ』は、映画「地球に落ちてきた男」のサントラ用の曲を手直しした曲らしく、宇宙に永遠に浮遊しているかのような空虚で絶望的なイメージは、『スペイス・オディティ』のトム少佐とどことなくイメージがダブる。
ロウ以前か以降か
『ロウ』発表時期は1977年、パンク全盛時にこんな誰もやろうとしなかった実験的な作品を発表した意味は大きい。
セールス的にもイギリスチャートの2位にランクインし、【実験的な音楽をしながら商業的にも成功するミュージシャン】としてもボウイの面目躍如となった。
現在ではメジャーのミュージシャンがこんな事をやりたいと言ってもレコード会社が許可しないだろうし商業的にも成功することは非常に難しい。
そういった意味でもロウはロック史に残る名盤と言えるだろう。
そして、『ロウ』の注目点はテクノを先取りしながらも部分的にクラシックの手法を取り入れボウイ自身の声もエスニックな楽器の一部として活かしている部分ではないだろうか。
そのため退廃的なシンセサイザー中心の音楽でありながら人間的な血の通った温かみの感じる事が出来るアルバム作品となっている。
ちなみにこの『ロウ』のジャケット写真を宇多田ヒカルが『桜流し』のジャケットでパロディにしている。
- Itunes試聴&ダウンロード
- Low (2017 Remastered Version)
デヴィッド・ボウイ
アルバムテータ
オリジナルリリース | 1977年 |
プロデューサー | トニー・ヴィスコンティ/デヴィッド・ボウイ |
チャート順位 | 英2位 米11位 |
Next⇒ヒーローズ (1977年)
アルバム全曲再現ライブ
2002年には『ロウ』収録の全曲を再現するライブを行っている。
曲順はオリジナルとは少し差し替えてある。
シンセサイザーが注目されたアルバムだが、一部の曲ではあえてパートをアナログに置き換えて演奏している。
コメント
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自分も「ZIGGY SUTARDUST」のレビュー書かせて頂きました。
「LOW」も、というか「ZIGGY ・・・」近辺のアルバム何枚か持ってますけど、「ZIGGY ・・・」に思い入れ強過ぎてあまり聴いてないなぁ。また聴きなおしてみよう。
Linkさせて頂きましたが、宜しかったでしょうか?
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オイラもZIGGY SUTARDUSTは聴きまくったけどそのほかはあんまり思いいれなかった。
デビットボウイつながりだけどモットザフープル知ってますか?
僕は大好きで人におせっかいにもテープ作って(むかし良くやったでしょw)薦めてました。
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>ウェイさん
やっぱボウイつーとジギーになりますかね。
音楽の趣味が合いそうなんでリンク歓迎です!
こちらもリンクさせてもらいます。
>mottiさん
モットザフープルはボウイがプロデュースしたバンドですね。
好きですよ。
そのあたりのグラム系もその内書きまっす。
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初めまして。
デヴィッド・ボウイとLowで検索をしていて辿り着きました。
"Low"は昨年初めて聴く機会に恵まれたのですが、聴けば聴くほど不思議なアルバムだと思います。(不躾で申し訳ありませんが、TBを入れさせて頂きました。)
それにしてもとても音楽の種類が豊富で、見易いBlogですね!
とても参考になります。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
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はじめまして。
コメント&TBありがとうございます。
今聴いても妙な音ですが発表当時はさらにインパクトがあったんでしょうね。