ベルリンでのブライアン・イーノとの共作2作目のアルバム。
軽さがあった前作『ロウ』よりもさらに暗く陰鬱で重厚なサウンドイメージに。
ブライアン・イーノはプロデュースでクレジット表記されていないが、クラフトワークの影響と共にサウンド重要な鍵を握る。
タイトル曲『ヒーローズ』は発表時からライブのレパートリーから外される事はなかったデヴィッド・ボウイのキャリア中でも重要曲で本人の一番のお気に入りの曲。
- 美女と野獣
- ライオンのジョー
- ヒーローズ
- 沈黙の時代の子供たち
- ブラックアウト
- V-2 シュナイダー
- 疑惑
- モス・ガーデン
- ノイケルン
- アラビアの神秘
当時の東西ドイツが生み出した緊張感
ヒーローズのレコーディングは、前作ロウ の流れを受けつつレコーディングはドイツのハンザスタジオで行なわれた。
ボウイが全面プロデュースしたイギー・ポップの『ラスト・フォー・ライフ(Lust for Life)』とはほぼ同時進行だった。
日本人カメラマン鋤田正義によるこの緊張感あふれる不思議なポーズのモノクロのジャケットは見事にアルバムの内容を表している。
漫画家の荒木飛呂彦氏もマネをしたこのポーズ(ジョジョの奇妙な冒険と洋楽ロック)について鋤田氏はこう語っている。
「結論から言うと謎のまま。僕より本人が一番わかっていると思う。僕はポーズをこぼさないようにどんどん撮っていくのが精いっぱいのフォトセッションで、ポートレイトの難しさと面白さを感じた。彼自体が表現したいことがあふれていた」
その後、このポーズは、デヴィッド・ボウイの大回顧展〈DAVID BOWIE is〉に行った事でドイツ表現主義の代表的画家、エーリッヒ ・ヘッケルの『Roquairol』を真似たポーズである事が分かった。
ヘッケルは版画も得意としており、白と黒の強いコントラストが印象的な『ヒーローズ』ジャケットのイメージもおそらくそこから来ているのだろう。
また社会の矛盾や革命、戦争をテーマに作品を制作していたのもアルバムテーマと一致する。
曲調は鮮やかなオレンジ色のジャケットのロウの前半のようなカラフルでポップな曲はなくシリアスで精神世界的なグレイなサウンドが続く。
オープニングの『美女と野獣』での今までのボウイになかった硬質で金属的なサウンドに驚かされる。
『ライオンのジョー』ではギリギリの狂気を思わせるシャウト。
これほどまでに曲にスピード感があるのはこのアルバムの収録曲のほとんどがファーストテイクだという事。
そして『ロウ』には参加していなかったキング・クリムゾンのロバート・フリップのギタープレイによるところが大きい。
今ベルリンにいるんだけど激しいヤツ弾ける?
フリップは、ボウイにそう電話で突然誘われたと語っている。
前衛的でありながら生真面目に正確なリズムを刻むフリップのギターはドイツの空気感とマッチして相乗効果を生んでいる。
さぞかし緊張感に包まれたレコーディングだったのかと想像しがちだが、ボウイによるとそうでもなかったらしい。
ブライアンと一緒にいる時はたいてい冗談を言って過ごす。
笑い過ぎて床に転げ落ちてしまうほどだ。レコーディングのあいだ中、1時間のうち40分は涙をこぼして笑っていたと思うよ。
フリップがまた、とてつもなくおかしいんだ。信じがたきユーモア感覚だよ。
かくしてボウイ、イーノ、フリップ3つの才能が融合して名曲『ヒーローズ』は生まれた。
タイトル曲『ヒーローズ』
暗く無機質で金属的なサウンドのインストが多いアルバムの中で「詞のメッセージ性」に重点を置かれた曲であり、この曲の存在によって歌詞の意味そのものを拒否していた『ロウ』との違いを感じる事ができる。
今はなき東西のドイツを分断していたベルリンの壁で落ち合うカップルをヒントにできたと言う逸話があるが、実はプロデューサーのトニー・ヴィスコンティと当時恋人だった歌手のアントニア・マースがスタジオの窓の外で抱き合っていた場面をヒントにしたものだった。
ヴィスコンティによるとその瞬間、ボウイが「それだ!」と言って『ヒーローズ』の歌詞を書き出したらしい。
誰でも1日だけならヒーローになれる
というシンプルで刹那的なメッセージのこの曲はイタリア語、ドイツ語、フランス語バージョンでも録音された。
【フランス語バージョン】
とてもシンプルな構成でゆったりとしたAメロで始まりサビがそのAメロがそのまま1オクターブ高くなるという日本のロックやポップス曲ではまずあまりない展開。
ヴォーカルのエコーの効いた迫力あるサウンド作りはプロデューサーのトニー・ヴィスコンティのアイディアによるものだ。
距離別に3つのマイクを用意して一番手前のマイクは小さくささやくような声用、二番目に離したマイクは普通の声量で歌う用、三番目の一番離れたマイクはシャウト用と分けている。
曲の最後のシャウトの時は押さえ気味で歌っていた時に反応しなかった一番遠いマイクまですべて音を拾い独特の広がりと迫力のサウンドとなる。
ボウイの曲と声にイーノによるエコーを効果的に使った音処理、フリップのイマジネイションあふれるギターにより代表曲となったがライブでは定番の最後の盛り上がりのコーラスの場面ですぐにフェイドアウトしてしまうのが惜しい!
87年に西ドイツでライブした際には、スピーカーの4/1を東側に向けて演奏させた。
この曲のメッセージは東側の人々の耳にも届き、べリリンの壁崩壊に一役買ったと言われている。
『沈黙の世代の子供たち』は今までのボウイの曲になかった中近東風の曲だがどこか宇宙的なサウンドになっているのがいかにもボウイらしい。
その後はひたすらインストが続くが一曲ごとに独立した曲ではなく現代音楽の組曲といった感じか。
後半の日本の庭園をイメージしたという東洋のヒーリングミュージック的な曲の『モス・ガーデン』ではボウイ自身による琴のプレイも聴ける。(かつて、いや今でも琴をプレイするロックスターがいただろうか?)
『ノイケルン 』はトルコ人が多く住むドイツの地名らしく中近東風のボウイのサックスの演奏が聴ける。
もう完全にポップアルバムとしては破綻していて一体どこに行くのだろうという所で『アラビアの神秘』でやっと強引にこっちの世界に引き戻される感じがする。
アルバム総評
ロウ、ヒーローズのベルリン時代のデヴィッド・ボウイの一番の魅力は「狂気」を感じさせながら決してそちら側へは行かずギリギリの所で踏みとどまるバランス感覚だったのでないだろうか。
不安定で実験的な音楽をしながらボウイ自身には確信があって迷いがないから安定した状態で実験をすることができたように思える。
キュアーのロバート・スミスはボウイはロウを出した後に死ねば良かったんだと言ったが、この『ヒーローズ』の存在を忘れていたんじゃないだろうか?
【アルバムデータ】
- リリース
- 1977年
- プロデュース
- トニー・ヴィスコンティ デヴィッド・ボウイ
Next⇒ロジャー(1979年)
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David Bowie デヴィッド・ボウイ/ロウ
ヒーローズ収録曲の動画
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Heroes
Sons of the Silent Age
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コメント
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私、このアルバム持っていません。
が、鋤田氏撮影のこのジャケットが大好きなんですよ。
nasumayoさんの解説を読んでいたら、メチャクチャ欲しくなりましたね、このアルバムが。「グレイなサウンド」、「金属的で無機質」というのが、ジャケットの感じと凄くリンクするような気がします。
できれば、アナログLPが欲しいな。
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そう言ってもらえるとうれしいです。
やっぱりジャケットも含めて作品だとあらためて思いました。
このポーズは鋤田氏が指定したのではなくボウイが何パターンか自分で考えて鋤田氏が撮影した数枚から選んだらしいです。
このジャケット写真がきっかけで鋤田氏の写真集も買ってしまいました。
David Bowie「HEROS」
このアルバムを初めて聴いたのは、FMラジオ。 この頃はまだ、売れるアーチストの新