坂本龍一自身が出演しデヴィッド・ボウイ、ビートたけしとの共演も話題になった1983年に公開のカンヌ映画祭にも出品された大島渚監督映画のサウンド・トラック。
英国アカデミー賞、作曲賞受賞アルバム。
- メリー・クリスマス ミスターローレンス
- バタヴィア
- 発芽
- 腹いっぱいの朝食
- 闘いの前
- 種子と種を蒔く人
- 短い出会い
- ライド・ライド・ライド(セリアーズの弟の歌)
- ザ・ファイト
- ファーザー・クリスマス
- 出て行け!
- 集合
- 理性を越えて
- 種を蒔く
- 詩篇第23
- 最後の後悔
- ライド・ライド・ライド
- ザ・シード
- フォービドゥン・カラーズ
メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス
坂本龍一は当初俳優としてのみ映画に関わる事に抵抗があり、このサウンド・トラックを担当する事を条件に出演をOKしたと言われている。
その坂本龍一が亡くなった報道で一番多く流された曲は間違いなくこの『メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス(Merry Christmas, Mr. Lawrence)』だった。
正直言って映画自体は、坂本龍一が戦場なのに何故かメイクしていたり、トム・コンティの日本語が下手過ぎて聞き取れなかったり、内容的にもあまりよく分からなかったが、映画のラストに流れるこの曲は非常に印象的であり坂本のキャリアでも最もメジャーな曲となった。
だが、不謹慎と言われようがこの曲を聴くと個人的にはどうしてもアホアホマンでピアニカの最後の音をわざと外して浜ちゃんにどつかれる教授を思い出してしまう。
メロディーは、日本で昔から童謡や民謡でよく使われるドレミファソラシドの四音(ファ)と七音(シ)を抜いたヨナヌキ音階を基本としているが、ここに部分的にシの音を加える事で西洋的な要素のある東洋、西洋の文化に影響を受けた日本のようなイメージを打ち出しているのが印象的だ。
映画で共演して撮影中はお互いのデモテープを交換し合う仲だったデヴィッド・ボウイは本作ではノータッチ。
しかし、東洋的なイメージを意識して作曲された収録曲からボウイがいかに日本や東洋に影響を受けていたかがうかがえるし、坂本が『ロウ』『ヒーローズ』といったベルリン時代のボウイ(と言うよりイーノ)に影響を受けていたのかも分かる。
ラストトラックに収録された『メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス(Merry Christmas, Mr. Lawrence)』にボウイフォロワーの元JAPANのデヴィッド・シルヴィアンがオリジナルの歌詞とメロディーを加えた『禁じられた色彩(Forbidden Colours)』だけがアルバムからやや浮いてしまっているが、単独で聴くとインストロメンタルのオリジナルとだいぶ趣が変わりなかなか味がある。
もしかしたら当初はボウイに歌って欲しかったのかも知れないが、当時のボウイはシンセサイザーを駆使した音楽を嫌っていたからなあ。
イギリスでシングルカットされ全英シングル・チャートで16位を記録している。
他にメロディーが印象的なのはボウイと坂本のキスシーンで流れる『種を蒔く(Sowing The Seed)』くらいでシンセサイザーによる同じフレーズの繰り返しによるミニマルミュージック的な楽曲が多く収録されている。
坂本龍一らしい繊細さがあり、無国籍で時に宇宙的でもありヒーリング・ミュージック的でもある。
アルバム総評
日本だけでなく中国やインド、戦争当時進行していた東南アジア以外にも中東まで含んだ西洋人がイメージする架空の東洋を音楽化したような不思議なサウンド。
一般的な日本人が好まないインストロメンタル中心のかなりマニアックな音楽だが、オリコンチャート8位にランクインし商業的にも一定の成功を収めた。
当初の配役はロバート・レッドフォードと沢田研二だったそうだが、もしそうなっていたらまったく違う映画になっていただろうし、このサウンド・トラック自体が存在していなかったのだから坂本龍一のキャリアも映画の評価も現在とはかなり違っていたのかも知れない。
2013年には発売30周年を記念して30th Anniversary Editionがリリースされたので2023年に追悼の意味でも40周年記念盤がリリースされる可能性は高い。
このアルバムは30日間、無料利用できるAmazon Music Unlimitedに含まれています。
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