ティン・マシーン(Tin Machine)

David Bowie

80年代後半の迷走していた時期に突如結成された4人組のロックバンド、ティン・マシーンのデビューアルバム。

これはデヴィッド・ボウイのバックバンドではなく、インタビュー等でもボウイの発言権は4/1でしかなく、あくまでもバンドの1メンバーとしての扱いだった。

ジャケット写真のカメラマンは、ヒーローズと同じ鋤田正義が撮影を担当。

  1. へヴンズ・イン・ヒア
  2. ティン・マシーン
  3. プリズナー・オブ・ラヴ
  4. クラック・シティ
  5. アイ・キャント・リード
  6. アンダー・ザ・ゴッド
  7. アメイジング
  8. ワーキング・クラス・ヒーロー
  9. バス・ストップ
  10. プリティ・シング
  11. ヴィデオ・クライム
  12. ラン
  13. サクリファイス・ユアセルフ
  14. ベイビー・キャン・ダンス

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ソロキャリアを封印してバンド活動へ

スーパースター路線に完全に行き詰ったボウイは、今までの全てを投げ捨てる覚悟で新たにロックバンド、ティン・マシーンを結成した。

バンドメンバー
  • デヴィッド・ボウイ(Vo,Gt)
  • リーヴス・ガブレルス(Gt)
  • ハント・セイルス(Dr)
  • トニー・セイルス(Ba)

ドラムスとベースのセイルス兄弟はイギー・ポップ のレコーディングで知り合い、ギターのリーヴス・ガブレルスはロスのクラブで演奏してるのを見てボウイが直々にスカウトした。

このティン・マシーン結成直後にボウイは、もう過去のデヴィッド・ボウイとしての曲は一切演奏しないと宣言して最後の(つもりだった)ワールド・ツアーであるSound + Vision(サウンド&ヴィジョン)ツアー に出たのだから当時の意気込みは相当なものだった。

コンセプトとしては、かつて自分が70年代後半に流行させたコンピューターによるデジタルサウンドは一切使わずにアドリブを重視した60年代ロックをノイジーに仕上げた硬派バンド。

今だったらそんなのもアリかなと思うかも知れないが、当時の浮かれた音楽シーンでは、完全に流行遅れの野暮ったいバンドだった。

しかし、考えてみたらこの2、3年後にはニルヴァーナの大ヒットでオルタナティブロックブームが来るのだから、やっぱりボウイの時代を読む力は確かだったのだ。

ジョン・レノンのカバー、『ワーキング・クラス・ヒーロー』を除くほぼ全ての楽曲をボウイが手がけている。

どう考えてもバンドの力関係はデヴィッド・ボウイ&バックバンドだが、当時のボウイはどうしてもバンドの一員でいたかったらしい。

シングルヒットしそうなコマーシャルな曲は一切なく、派手さもなくすべてがうまくいっているとは言い難いが、音楽的には決して失敗作ではない。

アルバムを通してセイルス兄弟のリズム隊がかなり一本調子なのはちょっと気になるが、『4. クラック・シティ、5. アイ・キャント・リード、6. アンダー・ザ・ゴッド』の流れの楽曲、演奏共にボウイのソロの楽曲を含めても水準以上だろう。

アルバム中でも特に『アイ・キャント・リード』でのリーヴス・ガブレルスのぶっ壊れ気味の危なっかしいギター演奏は、今聴いてもスリリングだし、まだグランジやオルタナティブと呼ばれるジャンルがない時期の先駆け的な楽曲だ。

特に『ベイビー・キャン・ダンス』の演奏は凄まじく、この曲に限ってはアルバム『世界を売った男 』の演奏をさらに進化させたような勢いと創造性を感じる。

アルバム総評

今思い返すと、このメンバーを従えてソロアルバムとして発表すればボウイの黒歴史にならずに済んだのだが、当時のボウイはその自信が無かったのだろう。

ティン・マシーンは、決して悪い内容のアルバムではなかったが、デヴィッド・ボウイのアルバムではなかった。
それがほぼすべてだった。

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