デヴィッド・ボウイが『ロジャー』以来の18年ぶりにブライアン・イーノと組んで発表した複雑怪奇なコンセプトとサウンドがやっぱり賛否両論となった95年のアルバムがこの『アウトサイド』。
おそらくボウイのアルバム中もっとも聴きづらく一般的に評価されてない不遇のアルバムでもある。
- レオン・テイクス・アス・アウトサイド
- アウトサイド
- ハーツ・フィルシー・レッスン
- 一片の土地
- セグエ(次の楽章へ)~ベイビー・グレイス
- ハロー・スペースボーイ
- ザ・モーテル
- アイ・ハヴ・ノット・ビーン・トゥ・オックスフォード・タウン
- ノー・コントロール
- セグエ(次の楽章へ)~アルジェリア・タッチシュリーク
- 性倒錯者の完全なる破滅(美しき者の死)
- セグエ(次の楽章へ)~ラモーナ・A.ストーン|アイ・アム・ウィズ・ネーム
- 希望的始まり
- ウィ・プリック・ユー
- セグエ(次の楽章へ)~ネーサン・アドラー
- アイム・ディレンジュド
- 建築家たちの視線
- セグエ(次の楽章へ)~ネーサン・アドラー
- ストレンジャーズ・ホエン・ウィ・ミート
実験的過ぎて賛否両論
アルバムのコンセプトとしては、ロンドン芸術犯罪特捜部の探偵ネイサン・アドラーの日記に基づく猟奇殺人ベビー・グレース・ブルーの儀祭殺人事件をテーマにした架空のサイコホラー映画のサウンド・トラック。
今考えると『アウトサイド』はフツフツと湧き上がる創作意欲による80年代の自らの負の遺産への清算だったのかもしれない。
16年ぶりにパートナーとなったブライアン・イーノとは、妻イマンとの93年の結婚式で再会して再び意気投合。
80年代は封印していた久々のキャラクターである探偵博士のネーサン・アドラーも誕生した。
このアルバムについては、当時のロッキング・オン誌でボウイはついに自分にトドメを刺したなどの袋叩き状態にこき下ろされたのに対してクロス・ビート誌では冷静に評価していたのが印象的だった。(ロッキング・オンはその後のアウトサイドツアー日本公演を見て手のひら返しの大絶賛だった)
サウンドはやはり当時のブライアン・イーノのソロ作品の感触に似ている。
そして何といっても後にアウトサイドツアーの前座をつとめることになるナインインチ・ネイルズのトレント・リズナーの影響がかなり強いように思えるインダストリアル・ロック路線。
70年代は時代を常にリードしていたボウイが、完全に当時の流行に後追いした形となった為、本当に命取りとなりかねない背水の陣でアルバムは製作された。
それでも出来上がったのはデヴィッド・ボウイ以外に誰も造れないであろうイビツで個性的なアルバムだった。
多くの人が指摘するように確かにコンセプトは頭でっかちでキャラクターもジギースターダストやダイヤモンドの犬のような分かりやすさもなく、とっつきにくい。
映画『セブン』のエンディング曲にもなった『ハーツ・フィルシー・レッスン』の猟奇的なPVを初めて観た時は、確かにちょっとイタイ印象は受けた。
これには『ツイン・ピークス』などのサイコ・サスペンスドラマや映画がブームになった当時の時代背景があった。(映画版ツイン・ピークス』にはボウイ自らオーディションを受けて出演している)
日本でも鬼畜ブームがあったのがこの頃だ。
『ハロー・スペースボーイ』も過去の自分の宇宙イメージを引きづっているようにしか思えなかった。
多分、このアルバムからボウイを聴き始めた人は、何だか訳のわからん音楽をやっているおっさんって印象で自分には合わないと思って他のアルバムを聴こうとは思わないだろう。
実際に私の友人が、「デヴィッド・ボウイ聴いてみたけど、良さが分からなかった」と言ってきたので「どのアルバム聴いた?」と尋ねてみたら案の定、この『アウトサイド』だった。
そんな風な人が結構いたみたいでボウイのアルバムの中でブックオフの安売りの棚で最も見つけやすいアルバムの1つなのだった。
実態は時代の先を行くサウンド
この『アウトサイド』は、何回か聴いたきりで何年も聴いていなかった。
まだグランジブームの余韻があった90年代半ばではデジタルでメリハリのない非常に違和感のあるサウンドだったし何よりもコンセプトも構成も難解すぎた。
しかも強力なアルバムを引っ張るシングル曲もないため全20曲はボリュームがありすぎて聴いていると結構つらくなる。
それでも後半の『ストレンジャーズ・ホエン・ウィ・ミート』はボウイらしいポップな名曲でこれでちょっと救われたって感じるのはヒーローズの『アラビアの神秘』と似ている。
しかし、今回レビューのために聴いてみたら意外に良かったのでちょっとびっくりした。
いや90年代以降のデヴィッド・ボウイのアルバムの中ではかなりいいんじゃないか!そんな気もしてきた。
アルバム総評
表面上は、当時流行のインダストリアル・ロックをなぞっただけのアルバムにも思えるが、ここに自由に暴れまわるリーブス・ガブレルスのギターとマイク・ガースンのピアノのアドリブによるフリー・ジャズの要素が加わっているのがユニークな点だった。
実はインダストリアル・ロック+ジャズという誰もやっていなかった新しいジャンルを切り開いたアルバムでもあったのだ。
もしかしたらレッツ・ダンスのように時代が一回りしてアウト・サイドが再評価される時期に来ているのかも知れない。
この『アウトサイド』発表時のボウイは、今後1年~1年半の間に5枚のコンセプトアルバムを製作予定だとか、対になるアルバム『インサイド』を発表すると語っていたが、いつものごとく、きれいサッパリ忘れ去られたのだった。
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David Bowieデヴィッド・ボウイ/ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ
コメント
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このアルバムはあなどれないんですよねぇ。
冷静に聴くと結構な傑作だと思うときがあります。
長いのは何度聴いても辛いですが。
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> 冷静に聴くと結構な傑作だと思うときがあります。
そうですねぇ。10年以上かかってやっとわかりました(;´∀`)
もうちょっとコンパクトにしてコンセプトもわかりやすかったら受け入れられてたかもしれませんね。
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こんばんは。いつも楽しく拝見させていただいています^^
イーノと組んだというウワサを知った時、マニアックに
なるんだろーなー、思ったし(イーノは好きですが)
映画「セブン」で曲が流れた時「ああ、やっぱりなぁ」ってw
当時の音楽シーンも映画も「人間の暗部」「おサイコ」を
これみよがしに表現するのが主流だったとはいえ、
ボウイの長所でもあり短所だとも感じるのは
「時代性や流行を意識し過ぎる」ところかも、ですね・・・
それだけ真面目だし柔軟性や才能もある証拠なんでしょう。
ただ正直「未だにとまどいを感じるアルバム」です。
年齢なんて関係無いから、そろそろ
「オレのマネ出来るならしてみろよっ!!」って
自信たっぷりのカッコいいアルバム、作ってくれないかなー。
「屈折する知性」じゃなくて「屈折する星クズ」を!
・・・って生意気書いてごめんさい!でも本音!
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こんばんは。
時代性や流行はかなり感じますね。
やっぱりそれだけ当時はナインインチネイルズの存在感があったのかなと。
他のボウイのどのアルバムとも違いますもんね。
今となっては未発表の兄弟アルバム『インサイド』もどんな内容だったか気になってしまいます。
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こんばんは。何度もごめんなさい(汗
未発表の兄弟アルバム『インサイド』・・・初耳です!
聴きたいです・・・って言いますか、聴かないと
ファンとして浮かばれませんw
貴重な情報、ありがとうございます^^
もうちょっとアルバムの発表のタイミングを変えていたら
叶ってたかもしれませんね~。
レディオ・ヘッドの「KID-A」と「アムネジアック」みたいな
受け入れられ方をしたかもしれませんし。
ナインインチネイルズの影響・・・ありますね。確かに。
では、失礼いたします^^
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こんばんは。
インサイドに関してはボウイ自身がインタビューでほのめかしただけですから実際に音源があるんだかちょっと怪しい気がします。
何しろ彼は嘘つきですからね(笑)