アルバム発表当時に流行していたドラムンベース(ボウイはジャングルと呼んでいた)を大胆にロックに取り入れた97年発表の意欲作。
頭でっかちなコンセプトはどっかに忘れて新しいものに飛びつくフットワークの軽さとわかりやすさが戻ってきたアルバム。
- リトル・ワンダー
- ルッキング・フォー・サテライト
- バトル・フォー・ブリティン
- セヴン・イヤーズ・イン・チベット
- デッド・マン・ウォーキング
- テリング・ライズ
- ラスト・シング・ユー・シュッド・ドゥ
- アイム・アフレイド・オブ・アメリカンズ
- ロウ
- テリング・ライズ(アダム・F・ミックス)
短期間で作り上げた90年代の代表作
タイトルであるアースリング(Earthling)は、『地球人』を意味する。
これは以前からボウイが何度もテーマにした『宇宙人』の正反対の言葉であり、ボウイの事実上の人間宣言とも言えるだろう。
時は21世紀を目前にした97年、『アースリング』は同時期に発表されたU2の『POP』と良く比較されていた。
まだインターネットが一般に普及していない時代だったが、当時のボウイはインターネットの可能性についてインタビューで言及しており、やはり世紀末にデジタル的なサウンドに近づくのは自然の流れなのかも知れない。
ドラムンベースと言ってもバンドサウンドの生音との混合ビートで完全なデジタルビートではないのが『アースリング』のユニークなところ。
とはいってもドラムンベースのリズムを取り入れた曲はアルバム収録曲の半分もない。
つまりアースリングはドラムンベースをロックに部分的に組み込んだアルバムであって決してドラムンベースがメインのアルバムではない。
アルバムを牽引するシングル曲
シングル曲、『リトル・ワンダー』は見事にそれを表現した楽曲でPVではデヴィッド・ボウイが演じた『ジギー・スターダスト』や『シン・ホワイト・デューク』などの過去のキャラクターが登場して話題になった。
スリリングで退屈しないこの曲はデヴィッド・ボウイの歴代のシングル曲の中でもトップ10に入る出来だろう。
しかし、『ルッキング・フォー・サテライト』は恐ろしく退屈な曲になってしまっている。
これはAメロしかないためでおそらくアイディアがここまでしか出てこなかったのでそのままレコーディングしてしまった感がある。
以前はなんらかの仕掛けがあったボウイの楽曲もこれ以降、この『Aメロのみの退屈パターン』が増えていくことになる。
その中で強力なのがやはりシングルになった『デッド・マン・ウォーキング』。
デジタルサウンドになっているのでわかりにくいが、この曲のベースパターンはどこかで聴いたことがないだろうか?
アルバム『世界を売った男』に収録されている『スーパーメン』のリフとほどんど同じだ。
それをうまいこと流用してまったく別の曲に仕上げている。
これも90年代のデヴィッド・ボウイを代表する名曲と言えるだろう。
アルバム総評
正直言ってこのシングル2曲以外はあまりパッとしない気がする。
音楽性は別にしてアルバムの出来の印象としては『レッツ・ダンス』に近いかも知れない。
アルバムの大部分のパートで当時の右腕だったギタリスト、リーブス・ガブレルスのノイジーなギターが暴れているが、それに救われていると言うべきかごまかされていると言うべきか。
他の人のレビューでも『アースリング』は違うだろうとか、あれは受け入れられないと言う意見は結構見聞きする。
しかしそれは『グラムロック時代』だったり『ベルリン時代』だったりある特定の時期のデヴィッド・ボウイに思い入れのある人の意見なんだろう。
新しくて面白そうなものにサッと飛びつく節操のなさ、フットワークの軽さ、こだわりの無さこそデヴィッド・ボウイの面目躍如であり『アースリング』は実にデヴィッド・ボウイらしいアルバムだと言える。
その反面、『アースリング』は短時間でほぼ勢いのみで製作されたので作品に深みは感じられない。
しかし、当時50歳の地位も名声もあるベテランミュージシャンが発表するにはあまりも冒険心にあふれている。
そのあたりはもうちょっと評価されてもいいんじゃないかな。
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Live At 50Th Birthday
このアルバムの発表直後にニューヨークで行われたボウイ自身の50歳を祝うバースデーコンサートは、ルー・リード、ビリー・コーガン(スマパン)、フーファイターズ、ソニック・ユース等の超豪華なゲストが参加して行われた。
ここでのボウイは90年代前半までの低迷が嘘のように実にカッコ良かった。
当時、このライブを観て「ああボウイはついに復活したんだな」と感じた。
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