デヴィッド・ボウイ/ザ・ネクスト・デイ(David Bowie/The Next Day)

David Bowie

デヴィッド・ボウイが10年ぶりに発表したアルバムでレコーディングから発表まで極秘に進行した。

日本盤のみが収録曲が1曲多く『ゴッド・ブレス・ザ・ガール』が収録されている。
かつてのような革新性はないが、シブくなり過ぎない大人のロックを展開。

  1. ザ・ネクスト・デイ
  2. ダーティ・ボーイズ
  3. ザ・スターズ
  4. ラヴ・イズ・ザ・ロスト
  5. ホエア・アー・ウィ・ナウ?
  6. ヴァレンタイン・デイ
  7. イフ・ユー・キャン・シー・ミー
  8. アイド・ラザー・ビー・ハイ
  9. ボス・オブ・ミー
  10. ダンシング・アウト・イン・スペース
  11. ハウ・ダズ・ザ・グラス・グロウ?
  12. セット・ザ・ワールド・オン・ファイア
  13. ユー・フィール・ソー・ロンリー・ユー・クッド・ダイ
  14. ヒート
  15. ソー・シー (ボーナストラック)
  16. プラン (ボーナストラック)
  17. アイル・テイク・ユー・ゼア (ボーナストラック)
  18. ゴッド・ブレス・ザ・ガール (日本盤のみのボーナストラック)
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10年間の沈黙からの復活

リアリティツアーで心臓発作で倒れて以来、10年間ツアーも新作の情報も全くなかった。
ここ1~2年ボウイ周辺のスタッフやミュージシャンから『ボウイはもう引退したらしい』との話が流れていたが、それはこのザ・ネクスト・デイ』への壮大なフリだったと今やっと気付いた!

実はこれを真に受けてヒーザンのレビューでこれがボウイキャリア最後のピークと書いてしまっていた。

またしてもボウイに騙された訳だ。
デヴィッド・ボウイは以前にもエリザベス女王からの勲章を断った事があったが、その休んでいた間にロンドンオリンピックのオープニングアクトとしての出演も断ったらしい。
そのヒネクレ方はいかにも彼らしい。

考えてみればこのブログの最初の記事がジギー・スターダストで、その当時はリアリティツアーの興奮も残っていた時期だった。

それから7年かけてボウイのオリジナル全アルバムレビューをリアリティまで書いて一段落するつもりだった。

しかしあまりにも見事なタイミングで『ザ・ネクスト・デイ』は発表されたのだった。

ここ数年、ボウイについては引退したのかとか体調不良かといった憶測も飛び交っていた。
新曲を発表した理由について、ウェブサイトでは「売りたい物があるからではなく、言いたいことがある」からだとコメントしている。

さらに『戦場のメリークリスマス』(1983年公開)に出演していたボウイは、アルバム発表前に肺炎で亡くなった大島渚に「オオシマさんの魂が、この世を去った。彼の才能の恩恵を受けた我々は、今それを惜しむばかりだ」と追悼コメントを寄せた。

ザ・ネクスト・デイ発表のインパクト

プロモーション活動を一切行なわず、インタビューにも発表後も応じていなかった。
ほとんど誰も予測していなかった時期でのアルバム発表だけに、各方面にかなりのインパクトがあった。

iTunesチャートで27カ国で1位になり日本でも2位になった。
またAmazon.co.jpのポピュラー・ロックランキングでも1位になっている。

デヴィッド・ボウイ/ザ・ネクスト・デイ ロックランキング1位

今回の10年ぶりの復活について色々な人がコメントをしている。

各方面の著名人のコメント

山本寛斎

このアルバムには、彼の65歳の全人生が歌いこまれている。
彼の音楽や世界観に類似するものを持ったアーティストはいない。
そのクリエイションから迷いは、いささかも感じられない。

レディー・ガガ

ボウイの新曲を聴きながら、ベッドの中でハイになっているよ。
もう味わえないと思っていた至福の時。ボウイの新曲を初めて聴いてるの。

栗原類

彼は一体何者なのか?
天才?神?
今でもわかりませんが、少なくとも僕は彼は「天から落ちてきた男」だと思います。

坂本龍一

二人称の、過去の自分との対話。
人生で何が大事なのか?
平凡な日常、友情。
ただ生きていることの、かけがえのなさ。
老いてみなが通る道。

ノエル・ギャラガー

あまりにも良くて、ホントに驚いた。あれだけの曲を2年で作っただなんて、俺は1ミリも信じてない。10年かけて作ったようなアルバムだ。でも、もしそうなら、俺はもっと彼を尊敬する。俺は確実にボウイはこれまでに出てきた偉人たちと同等だと考えている。エルヴィスやジョン・レノンと…同じリーグだ

そういや宇多田ヒカルも桜流しでロウのジャケットをパロってたし、改めて色々な分野に影響を与えてるんだなと感じる。

ジャケットについて

最初にこのヒーローズのジャケットを塗り潰した『ザ・ネクスト・デイ』のジャケットを見た時は、ああ仮のジャケットなんだなと思っていた。

しかしいつまで待っても新しいジャケット写真は登場せず、このままのデザインで発売された。

さらにジャケットを見ると『Heroes』の文字を打ち消して『Daved bowie』の名前のみを残している。
10年ぶりだけど新しいサウンドもないし、キャラクターを演じる気もないし、普通に一人のミュージシャンとして良い音楽をやりたいんだと言うメッセージだと理解した。

これは後に映画『デヴィッド・ボウイ・イズ』を観て知った事だけど『ザ・ネクスト・デイ』のジャケットの候補は『ヒーローズ』以外にも『アラジン・セイン』などいくつかあった中で、いちばんしっくりいったこのジャケットに決定されたらしい。

ザ・ネクスト・デイ日本盤について

正直言って今時洋楽のCDが定価2,800円ってのはボッタクリもいいところだと思う。
だって輸入盤の一番安いバージョンだと1,500円もしないんだもん。

まあ日本盤のみBlu-spec CD2って規格の高品質フォーマットらしいけど聴き比べないと違いってわからないし。
でもボウイのアルバムはずっと日本盤で買っていたし、やっぱり近況の書かれたライナーと歌詞カードも読みたいし、何よりも日本盤のみに収録された『ゴッド・ブレス・ザ・ガール』が聴けるのでこちらを選んだ。

日本盤の売れ行きが良いのは多分、海外からも熱心なファンが購入してるんだろうなぁ。

ボウイの声について

実は一番心配していたのは、ボウイの声だった。
リアリティでかなり復活してきたもののやはり年齢もあるし、かなり衰えているだろうなと予想していた。

ところが、それも見事に裏切られた!
10年前と特に衰えた部分も感じられず、むしろ10年間ツアーを休み喉を酷使せずにいたせいか、なめらかで伸びやかな声はむしろ若返ったんじゃない?って位だったのには驚いた。

デヴィッド・ボウイ全キャリアの総括的な内容

プロデュースはヴィスコンティ、ギターはアール・スリック、ベースはゲイル・アン・ドーシー、ドラムはザッカリー・アルフォードなどお馴染みのメンツが多く、あっと驚く大物ゲストなどは参加していない。

アルバムを聴く前は、『ホエア・アー・ウィ・ナウ?』の内容からして相当シブい年相応の枯れた内容だと思っていたが、1曲目のスケアリー・モンスターズをほうふつとさせるノリの『ザ・ネクスト・デイ』を聴いてこれも完全に裏切られたのだった。
思った以上にロックなアルバムだった。

『セット・ザ・ワールド・オン・ファイア』はレッツ・ダンスに収録されてそうなダンスナンバー。雰囲気がキャット・ピープルに似ている。

『ユー・フィール・ソー・ロンリー・ユー・クッド・ダイ』のエンディングでさりげなく『ファイブ・イヤーズ』のイントロを入れたりしている。
正直言って内容以前にアルバムを発表する事自体に期待をしていなかった人が大半だろうから、今の各方面から大絶賛の『ザ・ネクスト・デイ』の評価は、ちょっと持ち上げ過ぎってのもあるような気がする。

しかしそれを差っぴいてもいいアルバムだなぁと思う。
特別に突き抜けた曲は無くても10年待たせただけにアレンジも良く練られていて駄曲は全くないし、変に気負った部分もなくビッグネームのアルバムらしく安定感がある。
聴いた後に色々な意味で『次の日』が来るのが楽しみになって来た。

20年ぶりに全英チャート1位に

本国イギリスでは全英アルバム・チャートで初登場1位を獲得した。

これはブラック・タイ・ホワイト・ノイズ 以来のちょうど20年ぶりだった。
またiTunesアルバム・チャートでは64ヶ国で1位を獲得した。

日本ではオリコン初登場5位を記録し、ジェフ・ベック65歳9ヶ月を6ヶ月更新する最年長チャート入りの新記録。
(すぐにポール・マッカートニーに更新されたが)

アルバムの製作は極秘を徹底したが・・・

10年ぶりのアルバム製作は、完全極秘が徹底されていた。
何しろボウイと40年の付き合いのギタリスト、アール・スリックですら外部に漏らさないようにと誓約書を書かされたそうだ。

しかし、たった1人だけ情報を漏らした者がいた。
それはロバート・フリップだった。

フリップは自身のブログにボウイがニューアルバムを製作するらしいとうっかり書いてしまっていた。
どうやらボウイ側からのオファーを隠居の身だからと断ったらしいが、その後に情報を漏らさないようにと言われていたのを思い出してオファー自体がなかったとすっとぼけてしまったらしい。

でも唯一約束を破ったのがフリップ爺じゃボウイも責める気はないだろうな。

各曲に散りばめられた過去の曲のフレーズ

トニー・ヴィスコンティが「過去と未来を繋げる」作品と語ったように『ザ・ネクスト・デイ』にはデヴィッド・ボウイの過去の名曲のフレーズが少しずつ散りばめられている。

『ザ・ネクスト・デイ』で初めてデヴィッド・ボウイの音楽に触れた新しいファンもいるだろうからまとめておこう。
タイトル曲の『ザ・ネクスト・デイ』はロジャーのレピティションを原型にしている。
『ザ・スターズ』の間奏のギターフレーズは、ジギー・スターダスト の『サフラゲット・シティ』、『ヴァレンタイン・デイ』のコーラスは同アルバムの『スター』を『ヒート』のアコギでの展開は、スペイス・オディティ、 『イフ・ユー・キャン・シー・ミー』の今さらなドラムン・ベースはアースリングを思わせる。(しかもアースリングの大半の曲よりも出来が良い!)
探せばまだまだ見つかりそうだ。

21世紀に入ってからのボウイは、過去の〇〇みたいな曲を作りたい!という思いで何度か失敗をしていたが、『ザ・ネクスト・デイ』にはその思いが見当たらない。
過去の自身の曲のフレーズを使っていながら、まるで他人の曲から引っ張ってきたみたいにパーツとして使いこなしている。

通常、アーティストが過去の作風と近い事をするのは『自分のコピー』をする事だと非難の対象となる。
ヘタをすれば「過去の栄光にすがる老人」扱いされかねなかったのに『ザ・ネクスト・デイ』はそうはならなかった。

ベストトラックはやはり最初のシングル曲『ホエア・アー・ウィ・ナウ?』だと思うが、この曲はデヴィッド・ボウイの過去のどの曲とも似ていない。
ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ
リアリティはカバー曲がアルバムで一番出来が良かったが、今回は違う。
個人的にはそれで充分だと思う。

42のキーワード

今回ボウイはどこからもインタビューは受けていないが、小説家でライターのリック・ムーディの取材に対して42の単語を送ってきた。

  • Effigies(肖像)
  • Indulgences(耽溺)
  • Anarchist(アナーキスト)
  • Violence(暴力)
  • Chthonic(冥界)
  • Intimidation(威嚇)
  • Vampyric(吸血鬼的)
  • Pantheon(神殿)
  • Succubus(夢魔)
  • Hostage(人質)
  • Transference(転移)
  • Identity(自我)
  • Mauer(壁 *ドイツ語)
  • Interface(接点)
  • Flitting(論争)
  • Isolation(孤立)
  • Revenge(復讐)
  • Osmosis(浸透)
  • Crusade(聖戦)
  • Tyrant(暴君)
  • Domination(支配)
  • Indifference(無関心)
  • Miasma(毒気)
  • Pressgang(強制)
  • Displaced(追放)
  • Flight(逃亡)
  • Resettlement(再定住)
  • Funereal(葬儀)
  • Glide(滑空)
  • Trace(追跡)
  • Balkan(バルカン)
  • Burial(埋葬)
  • Reverse(逆)
  • Manipulate(操作)
  • Origin(起源)
  • Text(原本)
  • Traitor(謀反人)
  • Urban(都会的)
  • Comeuppance(天罰)
  • Tragic(悲劇的)
  • Nerve(中枢)
  • Mystification(神秘化)

どうやらこの42のキーワードがアルバム『ザ・ネクスト・デイ』の全てを語っているらしい。

アルバムとしてはまとまりがない

10年分の曲の集まりだからアルバムとしては方向性がなく弱いと言わざるを得ない。
聴く人によって過去のあのアルバムに似ているという意見は多分どれも当っている。
だが、曲の一つ一つはツブそろい。

60年代の半ばまでアルバムはシングルの寄せ集め、もしくはシングルにならなかったボツ曲の寄せ集めだった。
ビートルズらがアルバムコンセプトの可能性を打ち出し、コンセプトアルバムを決定付けたのが、ボウイの『ジギー・スターダスト』だった。
そのボウイがジギースターダストの40年後にコンセプトも何もない10年分の寄せ集めのアルバムを発表したのは興味深かった。

『ザ・ネクスト・デイ』がYouTubeで年齢制限で18禁になる

アルバムからの第3弾PVのタイトル曲でもある『ザ・ネクスト・デイ』がYouTubeにアップロードされた。

出演はハリー・ポッター」シリーズのシリウス・ブラック役などで知られるイギリスの国民的俳優のゲイリー・オールドマン、『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』でエディット・ピアフ役を演じアカデミーを受賞したマリオン・コティヤールなどの豪華キャスト。

内容は修道女が出て来たりするキリスト教がかったテーマで、皿に盛られた目玉あり血しぶきありのアウトサイドの頃のようなグロさがある映像もある。

その中でボウイはステージに立って歌っている。
観客の前で歌うと言う姿はトゥナイトに収録されたブルー・ジーンを思わせる。
最後の鐘の音でボウイが消えるシーンはコントかと思った。

ところで、このPVをログインしない状態で見ようとするとこの動画は、一部のユーザーに適さない可能性があります。」とロックがかかってしまう。

この動画は、一部のユーザーに適さない可能性があります

規制するほどの内容か?って思ったけど、やっぱり血しぶきのシーン?それともアメリカって意外と未成年に対する性表現の規制があるから裸っぽい女性が出ているシーンか?
もしかしたら宗教がらみだからまずいとか?
わからんなぁ・・・

いずれにしてもボウイの爺さんになっても一向に落ち付かないっぷりにはちょっと安心するのだった。

【おまけ】エコー&ザ・バニーメンのイアンはボウイ重病説を信じトリビュート・ソングを作っていた

エコー&ザ・バニーメンのイアン・マッカロクは、アルバム発表を隠すためのデヴィッド・ボウイ重病説を完全に信じ込み2012年に「Me And David Bowie」という曲名のトリビュート・ソングを作っていた。

この曲はアルバムPro Patria Moriに収録されている。

この時期にボウイは、アルバムの発表の予定を練っていたんだから面白いったらありゃしない。

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